【記者魂30】日経平均11000円を回復!・・・元経済記者の独り言

政治家の端くれとして、本来ならば安倍首相の所信表明演説があったこの日、“アベノミクスの検証”といったテーマで書くべきなのかもしれない。しかし、前回の「記者魂29」で振れているほか、かつて経済ジャーナリストとして証券市場について“ご意見番”と称して書いていた点も踏まえ、やはり、今日こそはこのテーマで書かなければならない・・・そう思って筆を執った。日経平均が1万1000円を回復したことについてである。

株価上昇の背景について、筆者はこれまで起きた事象から、政権交代による政策転換・・・民主党政権の”分配重視”から自民党政権の“成長重視”への転換が大きいと記してきた。アベノミクスというのは、その中身であり、かりに、政権交代前の自民党総裁選挙で石破、石原両氏が勝利していたとしても、“分配重視”からの転換を示唆したのであれば、それなりに株価は上昇していたと思う。ただ、アベノミクスというのは、単に成長に力点を置くだけではなく、積極的な金融緩和が政策面で担保されているため、株式市場にとって今思えば、あの総裁選でベストの選択肢だった・・・と解釈している。

もっとも、この株価上昇、こういった見方に異論は少なくない。別にアベノミクスではなくても、遅かれ早かれ株価は上昇したというのだ。代表的なのは、世界最大の経済大国である米国の景気持ち直しによる世界景気回復。日本株は長い間、外需主導で上下動を繰り返していたので「財政の崖」の懸念が後退し、景気の上向きが期待される米国経済の拡大が、株価上昇の主因という。

実際、統計上でも米国は昨年末に在庫調整の終了が確認される状況となっていたため、日本の株価と米景気の相関関係が強い経緯を踏まえれば、今後も株価が上昇すると推定することが可能だ。米国が景気回復するということは、当然のことながら、金利に上昇バイアスがかかる。日本の景気回復が米国に対して遅行性があるのなら、国内金利の上昇も遅くなるため、今の株高を支えるドル/円相場の円安へのトレンド転換もロジックとして不自然ではない。上昇が急ピッチなのは、アベノミクスによってそのタイムラグの遅行性が大きくなったため・・・とみることもできる。

つまり、株価上昇をもたらしたのは政策ではなく、景気循環による・・・というもの。筆者も今世紀に入ってから、なかんずく小泉政権以降は、「民間のことは民間に」という改革を背景に、低迷期には景気対策の”真水”が議論の中心になった90年代のマーケットと異なり、株価は政策をよりどころをしなくなった・・・とみていた。政府が産業界に自立を促すようなスタンスを取れば、そうなっても不思議ではない。円高を克服するのは企業の努力、困難な条件を克服して外需を拡大する反面、政策からのサポートが小さくなった内需は相場でもテーマになりにくく、最近までは外需主導の相場を形成していたのだ。

ところが、今回のアベノミクスは違う・・・筆者はそう直感。自民党が国土強靭化法案を提出したあたりから、自民党に政権が戻った際には、その功罪は別としてマーケットは何年かぶりに政策を見るようになると思ったのである。ようは、昨年の11月14日(本来は12月16日以降と記すべきだが、株価は既に政権交代を読んでいたため、党首討論の日が転換となった)以降、相場を取り巻く環境が激変したというのが筆者の見方だ。

むろん、従来のような景気循環論のよる株価の上下動を否定するもではない。これまでの相場でも、政策がテーマになったことがあった。しかし、株価に刺激を与える一次的要素が“循環”から“政策”に再び回帰したと思っているのである。

もっとも、株式を売り買いしているプレーヤー、なかんずく個人投資家にとっては、循環、政策いずれが一次的要素であっても。儲けるチャンスが大きいため関係はないだろう。逆説的に言えば、政策が株価にとってプラスである上、循環論の見地でも良い方向に向かっているので、しばらく無かった好環境にあると言えるのではないか。

差し障りがあるので、個々で何がオススメかということは記さない。ただ、景気上向きと積極的な政策が重なる状況下では、バブルが起きる可能性は十分・・・そう考えている。その場合、どんな銘柄でも「上がるから買う、買うから上がる」となることが想像に難くない。それでも、いくらジャブジャブの資金が市場に流れても限りがある。そのため、相場格言にある「上げはバラバラ、下げは一緒」という動きになるのだが、個人投資家へのアドバイスを記すとすれば、循環物色の流れを適切に捉える・・・となろうか。

その循環物色、大きなテーマとなるのは国土強靭化による公共投資の拡大から建設セクター、さらには、安倍首相が本日の所信表明演説において成長戦略について、iPS細胞の例を挙げ「イノベーションと制度改革は暮らしに新しい価値をもたらし、経済再生の原動力になる」と重要性を指摘ことでバイオ関連・・・このあたりが有力候補になりそうな状況だ。

バブル相場では、単に上がるから買う、買うから上がるの腕力相場が起きやすいが、本当に大きな相場に育つのは何か実態のある対象。たとえば、80年代の土地バブル、今世紀初頭のⅠTバブル、リーマンショック以前の新興国バブル・・を思い出される。そして、歴史が繰り返されるのなら、80年代の土地バブル相場の直前は、制がん剤をメインテーマに据えたバイオ関連株相場となったが、ips細胞、公共事業拡大とくれば・・・「今回はどうなるのだろう?」・・・これは元経済記者の独り言である。

さて、今日、株式で注目したことをもう1つ加えておく。28日付け産経新聞に掲載されていた「ネット投資家 強制調査」という記事だ。

相場が良くなれば、悪さをする輩が増えるのがこの世界(相場が悪ければ、やりようがないので当然と言えば当然なのだが・・・)。水清ければ魚住まず、角を矯めて牛を殺す・・・というように、あまりに規制を強化すれば、上げ相場に水を差すリスクも生じるものの、ルールはルール。真面目に取り組む投資家が迷惑を被らないようにするためにも、不正は糺すべきと考えている。

それも、このニュースにあるような、“捕まえやすい”ところに目を向けるためではなく、たとえば、外資系金融機関の極めてグレーな部分、具体的には、アナリストレポートと顧客のトレードの関係、公募増資と証券自己部門のトレードの関係などにも、今後は積極的にメスを入れていくべきではないだろうか。FX取引がブームになった際にも、”ミセスワタナベ”を脱税容疑で摘発、一罰百戒のようにしたが、本当にメスを入れるところは別にある。ITバブル以前にも、クレアモント、コーリン産業、誠備グループ・・・といった事件は数々あったが、今や海外資本・マネーが東京市場の主力プレーヤーであり、「外圧に負けた」などという印象を投資家に与えないためにも、政府には適切な対応を要望したい。

しかしながら、この記事を読んで、今も昔も株価操縦というのは、IT化によって技法は変わりながらも、本質はまったく変わっていないという感想を抱いた。カゴ抜け、たらい回し・・・仕手筋と呼ばれる投資家・グループが使ったテクニックそのままに、ネット上で繰り広げられる”仕手戦”(今は死語になったかもしれない)。昔は、怪しげな投資顧問が出すレポートだったが、それがネット上の掲示板などに置き換わっただけで、欲に目がくらんだ投資家が”ちょうちん買い”をする・・・ご用心、ご用心だ。

20年ほど前だったろうか、占い師が雑誌に推奨銘柄を掲載、それがストップ高すると評判になり、雑誌発売と同時に書いてある銘柄がストップ高するということがあった。今でも、ボーソー油脂といった銘柄が急騰したことがあったと記憶している。

何回かそんなことが続いた後、森下仁丹が占い師の記事をもとに買いが集中・・・ところが大引け間際に、ドカンと大きな売り物が出て、その後、株価が急落。売り株数に見合った株を保有していた大株主がどうも売り抜けたらしい・・・真相は藪の中だったものの、大掛かりなカゴ抜けとみられる“事件だった”。そんなことを思い出す。ちなみに、その後、占い師は別の事件で逮捕されたが、肝心の森下仁丹株は、シームレスカプセルという大きな材料で数年後に大相場を演じ、結果的に“占いが当たった”というオチがついた。

筆者が見てきたことも含め、長々と記したが、「とにかく今の相場は強い」・・・独り言を記して、この項の結びとしたい。