【記者魂94】選挙における”寅さん”・・・「無所属はつらいよ」

若い時分の話になるが、毎年開催されて参加していたイベントに女性を連れてくる友人がいて、それが毎度違う女性であったものだから、その友人はみんなから”寅さん”みたいなヤツだと言われていた。

語るまでもなく、”寅さん”は48シリーズ続いた映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎の愛称である。このシリーズは、毎回マドンナが変わり、友人も女性を連れてきては振られるの繰り返しだったので、仲間内からそう呼ばれるようになった。

政治の世界でも寅さんはいる。選挙のたびに違う政党から公認を受けて立候補━━党名変更や所属政党の分裂など、仕方がないケースもあるが、活動状況を観察すると、多くの候補者は自分の意思による”渡り歩き”だろうか。映画の寅さんは、振られる、或いは身を引くというのが定番ながら、政治の世界の寅さんは反対に、自ら振って政党を移るというのが大半で、ここが映画と大きく異なる点だ。

”マドンナ役”は政党だけではない。立候補する種別(前回は市議選だったが、今回は県議選等々)は、たとえば「市で解決できない問題を県から変えたい」といった理由づけもあるので、まだわかるものの、前回あっちで落ちたので今回はこっちといったように、異なる自治体の議員選挙を目指すケースも見受けられる。

政界再編というのは常に起こりうるため、変わることは悪いとは思わないものの、政党の移動が2度、3度続くと、政策的な面も含め政治家としての矜持はあるのかと疑ってしまう。

いったい、彼ら寅さん(彼女ら寅子さん)は、議員になって何をやりたいのだろうか。これといった政策を実現したいと思うのなら、所属政党を簡単に移動できるものではない。そのことを、合理的に説明できるのであれば納得できるし、あとは有権者が判断するだけだが、”寅さん”にこの点を直接聞いてみても、たいていはあやふやな回答が返ってくる。

異なる自治体の議員選挙に立候補するというのは、さらに筋が悪い話だ。国政選挙において”お国替え”は珍しくなく、異論はあるかもしれないながら、どの選挙区も”日本”であり、我が国を良くすると高い志があるというのなら、選挙区の移動は理解できる。しかし、地方議会にその論法を当てはめることはできないだろう。

地方政治は地域のことを地域で決める、地域を良くするために存在するのである。その地域を変身させるために、卓越した見識、実行力のある首長を誕生させようと、よそからスカウトするかのごとく擁立するのはありと思うが、どうも、地方議会における寅さん、寅子さんらは、単に”自分が議員になりたい”ために、”当選しやすい議会選挙”を選んでいるようにしか思えない。

だとしたら、とんでもないこと。前の地域がダメだったから、今度はここで・・こんな気持ちの人に、地域を良くすることができるのだろうか。私は、政治家としてではなく、その地域に住む有権者の1人として、寅さん、寅子さんはお引き取り願いたいと思うし、議員には地域に根差して、真に地域のために尽くす人になってもらいたい。自分もそれを第一に活動している。

選挙を控える身として、寅さん、寅子さんになりたい心理は、わからないとは決して言わない。当選するためには、いわゆる三バンのうち”カンバン”があった方が有利な場合も多いし、街宣車や配布チラシなど選挙のテクニカル面で、無所属での立候補にはハンデもあるからだ。ある意味、映画のタイトルをもじれば「無所属はつらいよ」なのである。

所属政党が解党してしまったため、選挙戦においてどこかの党の公認を受けるとなれば、見た感じで”党が変わる”ことから、ある意味、私は”寅さん”予備軍だが、政策への思い、地域の思いをあくまでも第一に考え、この原稿に書いたような寅さんには決してならないよう、自分を戒めているところだ。そのため、選挙戦が「無所属はつらいよ」になってしまっても、身分を求めるためだけの”寅さん”になるよりはマシと考えている。

4月には統一地方選挙が行われる。そこで、あなたの街にも寅さん、寅子さんが立候補するかもしれない。本当に、政策のことをまじめに考えているのか、地域のために働くために立候補するのか、議員になりたいだけの寅さんか━━有権者の方々には、よく候補者を見極めて欲しいと思っている。