【記者魂(5)】財務省が養殖した“どじょう”

記者魂前回に続き「記者魂」では、野田首相をテーマとして取り上げる。

それにしても、世論調査の高い支持率は驚いた。ただ、各種調査で60%を超す支持率について筆者は、新政権が進めるであろうと考えられる政策を踏まえて、「支持する」と答えたものではないと思う。

自らを“どじょう”とした「レトリック」が心を掴んだとまでは言わないが、街頭活動からスタートした叩き上げで、生活者のために働いてくれそうなイメージが好感されたのは間違いなさそうだ。

前任の菅首相が酷過ぎたための反動もあるだろう。しかし、最も大きいのは、国民が永田町の中の対立に嫌気し、「ノーサイド」という言葉で不毛の対立にピリオドを打ってくれそうなことが、評価されたポイントなのではないか。

そんな高支持率の首相を批判することを記すのは、正直言って、少し躊躇してしまう。記者時代、2009年に起きた政権交代の前にして、民主党が掲げたマニフェスト、なかんずく子ども手当てを批判したことがあった。その後の経過から、それは正しかったと思っているが、当時はこの批判に対して猛反発する読者が少なくなかったのである。

今回もそうしたことには怯まず、政治的な立ち居地を抜きに、議員としての立場ではなく、ジャーナリストの精神に立ち返り、言いたいことを言おうと思う。あくまでも筆者の推論ながら、政権交代以降に野田首相が歩んできた点を踏まえて記す。野田首相は、どじょうはどじょうでも“財務省が養殖したどじょう”だ。

話は鳩山元首相が総選挙の際に、昔流で言えば大蔵族である藤井裕久氏を比例候補者として迎え入れたことに始まる。藤井氏は新政権発足後、財務大臣に就任。そこで藤井氏が財務副大臣に指名したのが野田現首相だ。

その後、菅政権で財務大臣に昇格する訳だが、政権交代後、財務省と歩んだ2年間、何年に一度かの大物次官である勝栄二郎氏をはじめ財務官僚に取り込まれたとしても、決して不思議ではないだろう。増税への言及も、その過程で理論構築したことが背景にあると筆者はみている。

昨年の参議院選挙において「消費税率引き上げ」を唐突に言って、民主党敗北のきっかけの1つを作った菅前首相も、藤井氏の後任、首相になる直前のポストは財務大臣。この時も、菅氏は財務官僚に取り込まれたとの見方が生じていた。2代続けて、財務大臣からの総理大臣就任──。この意味をよく考える必要があるだろう。

筆者が記した“財務省が養殖したどじょう”という見方が正しいのであれば、政策面では増税路線をひた走る可能性が出てくる。無駄を切った上で、なお足りないというのであれば、増税もやむをえない──筆者も、増税を全否定する訳ではないが、「やるべきことをやる」前の増税というのであれば納得できない。

野田首相の政権交代後に歩んできた道を考慮すれば、改革もせずに、税金だけ上げるということは十分あるだろう。ゆえに、しっかりと新政権が打ち出す政策をチェックする必要があるとここで訴えておきたい。

(水野 文也記す)